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枯れた技術の水平思考とは?意味を分かりやすく解説

   

枯れた技術の水平思考とは、かつて任天堂で数々のヒット商品を手がけた横井軍平(よこいぐんぺい)氏によるモノ作りの哲学です。

意味

「枯れた技術の水平思考」は、2つの言葉に分かれます。

  1. 枯れた技術
  2. 水平思考

枯れた技術」とは、最新の技術ではなく、すでに広く普及してメリットやデメリットが明らかになっている技術のことです(コストが安い)。

水平思考」とは、これまで使われていた用途からは離れ、今まで無かった新たな使い道を考えるというものです。

つまり、「枯れた技術の水平思考」とは、すでに広く普及して安価になった技術(枯れた技術)を、今まで使われてこなかった別のものに置き換えて使う(水平思考する)ことにより、新たな価値を創造するという考え方です。

高価になりがちな最先端技術を用いた製品開発とは異なり、製造・開発コストを低くおさえることができます。面白さやアイディアを重視したもの作りに活かされます。

具体的な例

ゲーム&ウオッチ

1980年に発売された任天堂初の携帯型液晶ゲーム「ゲーム&ウォッチ」。

当時、「電卓戦争」の余波でシャープは液晶の供給過多に困っていました。それを救う形で、液晶を搭載したゲーム機「ゲーム&ウオッチ」が開発され、大ヒットとなります。

元々電卓に使われていた「液晶」という枯れた技術(広く普及して安価になったもの)を、まったく別のジャンルである「携帯型ゲーム機」に水平思考して成功をおさめた事例です。

ゲーム&ウオッチを開発した横井軍平氏は、次のように語っています。

ゲーム&ウオッチは、5年早く出そうと思ったら10万円の機械になっていた。量産効果でどんどん安くなって、3800円になった。それでヒットしたわけです。

引用:『横井軍平ゲーム館』

ゲームボーイ

1989年に発売され、全世界で1億台以上を売り上げた大ヒット携帯ゲーム機「ゲームボーイ」。

当時、ファミコンが全盛でカラーのゲームが普及していた中、ゲームボーイはモノクロで開発されました。

カラーだと、コストが高くつくほか、電池の寿命が短くなるため、携帯するというメリットが損なわれてしまうためです。

結果、ライバルの「ゲームギア(カラーの携帯ゲーム機)」がアルカリ乾電池6本で約3時間ほどの持続時間しかない中、ゲームボーイはアルカリ乾電池4本で約35時間の電池寿命を誇り、携帯ゲーム機市場を席巻します。

これは、画面の派手さや美しさ、性能を重視するのではなく、ゲーム本来の面白さや用途(携帯するというメリット)などを重視したことによる成功例です。

ゲームボーイは、ゲーム&ウオッチを開発した横井軍平氏が手がけたゲーム機ですが、彼のように、性能ではなくゲーム本来の面白さなどを重視する考え方は「ヨコイズム」と呼ばれ、今もなお任天堂の開発現場に受け継がれています。

ファミコン(ファミリーコンピュータ)

1983年に発売され、全世界で6000万台以上を売り上げた家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」。

当時、アタリやトミー(後のタカラトミー)といった会社が5万~6万円の家庭用ゲーム機を発売する中、当時任天堂の社長だった山内溥氏は、「それほど高額なものが娯楽品として売れるわけは無い」と指摘し、1万円を切るテレビゲームを作るよう社内に指示を出します。

当然コントローラーも安く作る必要がありましたが、このときに採用されたのが横井軍平氏が開発した「十字キー」でした。

コストのかかるジョイスティックとは違い、十字キーは安く作れるほか、ゲーム&ウオッチでも採用されたという実績がありました。

元々はジョイスティックを原型として考案された十字キーですが、数々の利点があることが分かり、30年以上経った現在でも数多くのデバイスで使用されています。

十字キーの利点

  1. 部品が一つで済む
  2. 耐久力に優れる
  3. 操作がしやすい
  4. 指先の感覚で入力方向が分かる

アイディアを出せば、安価でも優れたものができるという事例です。

DSとWii

2004年に発売され、全世界で1億5000万台以上を売り上げた大ヒット携帯ゲーム機「DS」。

2006年に発売され、全世界で1億台以上を販売した大ヒット家庭用ゲーム機「Wii」。

ゲーム機が性能を競い合い、ソフトの開発費高騰などに苦しむ中、アイディア勝負に出た任天堂は、「タッチ操作」や「直感的な操作」といった独自の路線に進んで大成功を収めます。

世界中で大ブームを巻き起こしたDSとWiiですが、ライバル機に比べると決して性能的に優れたハードというわけではありませんでした。

DSのタッチスクリーンやWiiのモーションセンサーといった機能も、技術的に見れば最先端というわけではなく、広く普及して安価なものばかりです。

それら既存の技術を「ゲーム」という別の分野に使う(水平思考する)ことで、これまでに無い全く新しい遊びが作られ、大ヒットしました。

当時、任天堂の社長だった岩田聡氏は次のように語ります。

本来、娯楽って枯れた技術を上手に使って人が驚けばいいわけです。別に最先端かどうかが問題ではなくて、人が驚くかどうかが問題なのだから。

引用:任天堂 “驚き”を生む方程式

今でこそ、スマートフォンなどの普及によって、ゲームをタッチ操作で遊ぶことは珍しくなくなりましたが、当時はゲームをタッチ操作で遊ぶことはかなり斬新でした。

2画面やすれちがい通信、マイクといった機能も、決して技術的に最先端というわけではありませんでしたが、それらの技術をゲームに取り入れることで、新たな遊びの形が作られました。

例えば、シリーズ累計で3400万本以上を売り上げた「脳を鍛える 大人のDSトレーニング(脳トレ)」や、全世界で2400万本を売り上げた「nintendogs」に代表されるように、DSの機能をふんだんに活かした斬新なソフトウェアが次々に大ヒットしたのです。

Wiiで登場した体感型のゲームも広く受け入れられました。

Wiiは、当時主流になりつつあったHD画質には対応していませんでしたが、高性能で綺麗な映像でなくても、アイディアが良くて面白ければ売れるということを証明しました。

もちろん、Wii自体に最新の技術が全く使われていないわけではなく、本体を薄くしたり消費電力を小さくしたりといったことに力が注がれています。これは、リビングに置いたときに邪魔にならないことを第一に考えられたためです。

ラブテスター

ゲーム&ウオッチなどを手がけた横井軍平氏が開発した、男女の愛情度を計ることができる玩具です(1969年発売)。

人間の体に電気が流れていることを利用しており、2人で手をつないで、もう片方の手で端子を握ると、メーターが反応します。

原理は電流計と同じですが、「男女が気兼ねなく手を繋げる道具」というひねりを加えることで、愛情を測定する玩具へと変身します。

電流計という使い古された安価な技術を、全く別のものに使いまわした事例です。

あまりヒットはしなかったものの、横井軍平氏の開発哲学である「枯れた技術の水平思考」の原点となりました。

ラブテスターについて、横井氏本人は、「実にいい加減なもの」と言って謙遜しています。

しかし、愛情度の高い男女が手を繋ぐと、手のひらに汗をかき、電流は流れやすくなるということから、理にかなった玩具だったと言えます。

ポケモンGO

2016年に登場し、世界中で大ヒットしたスマートフォンのゲームアプリ「ポケモンGO」。

広く普及した様々なモノや技術を上手く融合して作られたソフトです。

  • スマートフォン
  • GPS(位置情報の取得)
  • AR(ジャイロセンサーやカメラによる拡張現実)など

その他

振動機能をゲームコントローラーに加える → N64の振動パックで臨場感のあるプレイが可能に

電熱器を応用 → お米を炊ける炊飯器に

モーターを応用 → シャツを洗える洗濯機に

この項目で紹介した以外にも、枯れた技術の水平思考は、もの作りの様々なシーンで活かされています。

横井軍平氏について

枯れた技術の水平思考を提唱した横井軍平氏は、かつて任天堂開発第一部の部長を務めた人物であり、数々のヒット商品を世に送り出しました。

手がけた代表的な作品

1960年代、伸び縮みして遠くのものを掴む「ウルトラハンド」、家庭で遊べるピッチングマシンの「ウルトラマシン」などを開発します。これは、「ウルトラシリーズ」と呼ばれ大ヒットします。

1970年代、光を発射して的を狙う「光線銃SP」などの「光線銃シリーズ」を展開して成功を収めます。

1980年代、世界初の携帯型液晶ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」が世界中で大ヒット、社会現象を巻き起こします。約60機種が発売され、そのうち約50種類が横井氏のアイデアによるものです。

三つのブーム

  • ウルトラシリーズ
  • 光線銃シリーズ
  • ゲーム&ウオッチ

横井氏は3つのブームを巻き起こしたのち、「ゲームボーイ」を開発、ゲーム&ウオッチを上回る世界的な売り上げを記録します。

その天才的とも言える偉業を讃え、2003年に開催されたゲーム開発者会議(GDC)において、生涯功労賞を受賞します。

この生涯功労賞は、ゲーム文化に多大な功績を残した人物に贈られるもので、最高の名誉とされています(他の受賞者は、マリオシリーズの宮本茂氏やメタルギアシリーズの小島秀夫氏など)。

ヨコイズム(ものづくりの哲学)

横井氏はものづくりにおいて、スペックにはこだわらず、アイディアを絞ることを徹底したほか、純粋に遊びとして面白いと思ったものを作ることにこだわりました。

遊びにコミュニケーションを取り入れることの重要性を早くから見い出した人物でもあり、男女が手を繋いで愛情度を計る「ラブテスター」や、通信対戦の先がけとなったゲームボーイの「通信ポート」など、彼の遊びに対する哲学は至るところに見られます。

こういった彼の哲学は「ヨコイズム」と呼ばれ、今の任天堂にも色濃く残っており、「ユーザーに驚きを与える」「新しい体験を提供する」といった思想と結びついています。

任天堂退社と独立、突然の死

当時、任天堂の顔とも言える存在だった横井軍平氏ですが、ゲームボーイポケットの開発を最後に任天堂を退社します(1996年)。

その後、株式会社コトを設立して「くねっくねっちょ」や「ワンダースワン」などの携帯ゲーム機や玩具の開発に携わります。

そして、独立から1年後の1997年、知人が運転していた車が事故を起こしたため、二次災害を防ぐために車外に出て車を路肩に寄せようとしたところ、後続車にはねられ、帰らぬ人となります。

枯れた技術の水平思考を学べるおすすめの本

「枯れた技術の水平思考」を提唱した横井軍平氏に関する本はいくつか発売されていますが、中でも一番分かりやすくて面白いのは、ちくま文庫の「横井軍平ゲーム館」という本です。

この本は他の本とは違って、「横井氏へのインタビュー」と、それに対する「著者の解説」という形でまとめられているため、非常に読みやすいです。横井氏の語り口調が含まれているため、彼自身の人間性も感じることができます。

「ヒット商品はどうやって生み出されるのか?」といったことや、彼のモノ作り全般に関する哲学である「ヨコイズム」、この記事でほんの一部を紹介した「枯れた技術の水平思考」などを学ぶことができます。

本書の構成は、彼が手がけた商品を追う形で、年代別、玩具のジャンル別に話が進んでいきます。ゲーム業界の歴史を学ぶのにもいいでしょう。

目次

  • 第1章 アイデア玩具の時代 1966-1980(ウルトラシリーズなど)
  • 第2章 光線銃とそのファミリー 1970-1985
  • 第3章 ゲーム&ウオッチの発明 1980-1983
  • 第4章 ゲームボーイ以降 1989-1996
  • 第5章 横井軍平の哲学 1997-20XX

横井軍平氏のことを、「過去の人」あるいは「低性能ハードを推進した人」というイメージを持っている方も多いと思います。しかし、それは彼本来の姿とはかなりかけ離れたイメージです。

本書を読めば分かりますが、横井軍平という人物は、自らが作っているものをかなり客観的に捉えていましたし、「娯楽」の本質を探ろうとする探究心は凄まじいものでした。

横井氏は、任天堂を世界的な企業へと押し上げた人物の一人であり、非常に高いレベルで物事を考えていたのです。

この本は、そういった彼の哲学に触れることができるほか、彼自身の人間味や暖かみにも触れることができる良書です。

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